余白を楽しむプロジェクトA Project to Interpret the Unseen

MIZEN

2016年2月、フランスのパリ郊外で開催された世界最大のテキスタイルの展示会、
Première Vision Paris(プルミエールビジョンパリ)。

そこでの代表寺西と着物との出会いが、
MIZENプロジェクトのスタートに繋がります。

当時、エルメスのデザイナーとして見学をしていた寺西が、
会場で偶然通りかかった、とある紬(つむぎ)の展示の前で足を止め、
その静かな美しさに息を呑みました。

その頃、日本の服地メーカーの色表現やデザインに課題を感じていた寺西にとって、
その紬の一見シンプルな中に表現された
繊細な色使いや組み合わせのバランスに驚きを覚えました。

さらには紬を成す糸そのものが、
現代においてもなお人の手によって紡がれているという事実を知り、
衝撃を受けます。

着物の世界には
ファッションとは全く別の時間軸でものづくりをしている人達が存在することに
初めて気が付いた瞬間でした。

それから寺西は着物に関する情報をオンラインで集め始めました。
長期休暇の度に日本へ一時帰国し、
産地を巡りながら各地の織元との繋がりを深めていきます。

そして
「最高峰の手仕事が詰まった日本の素材が、
今のファッションとは別の新たな世界を開拓できる」
そう確信したのでした。

“MIZENはファッションブランドではなく仲間集めのプロジェクト”

現在主流のファッションはデザイナーがピラミッドの頂点に立ち、
技術は彼らの世界観を具現化するための道具となる世界。

一方MIZENが目指すのは、
職人とその技術が主役となって、それらを活かすためのデザインを追求し、
技術者もデザイナーも消費者も各々がフラットな世界。

作品を通じて暮らし手と作り手が心で繋がり合える精神的な豊かさこそが、
これからの時代に求められる新たなラグジュアリーだと捉え、
これだけ多くの手仕事が残る日本だからこそ、
欧米を中心とする現在主流のラグジュアリーとは全く別の
新たな価値観を創り上げられるに違いない、
そう信じています。

そして、MIZENはこのような理念に共感する仲間を集め、
日本発の次世代にふさわしいラグジュアリーを共に創り上げるプロジェクトとして
2022年4月に始動しました。

技術が主役、職人が主役

現在主流のファッションはデザイナーが主役となり、
技術や職人はその世界観を具現化するための存在。

着物の需要減少が叫ばれる中、
織元は海外のファッションやインテリアなどのマーケットに活路を求めて出展するケースも多くなりましたが、
そんな彼らに対し海外のデザイナーから必ず言われることがあります。

「こんな狭い生地巾では、洋服は作れない。巾を広くして持ってきなさい。」

確かに、一般的な着物の生地巾は約38センチで、
一方洋服地は140~150センチと、比較すれば1/4程度しかなく、
実際に着物で洋服を作るのは容易ではありません。

しかしながらこの言葉こそ、まさに
”ファッションがデザイン中心で回っている”
ということを表しています。

例え彼らの要望通りの広巾で織ったとしても、
今度は「着物」としての価値が無くなり、
和装のマーケットでは売ることができなくなってしまいます。
このことが多くの着物の織元を躊躇させる理由の一つです。

そこで、寺西は考えました。

”デザインに技術を合わせるのではなく、
技術にデザインを合わせるという考え方があっても良いのではないか”

寺西は今まで培ってきた、パタンナーとデザイナーを兼務する3Dデザイナーとしての経験と独自の感覚を活かしながら、
この狭い巾を敢えて活かすデザインを生み出し、MIZENで実現させていきます。

”手仕事の詰まった着物という存在を活かすためには、どのようなデザインが可能か”

技術が主役となるデザインは、作品の表面に顕著に表れるものではなく、
そのプロセスにこそ思想が込められています。
だからMIZENの作品達は、一見すれば普通の洋服かもしれませんが、
そこに至るまでの様々な創意工夫の積み重ねの上に成り立っているのです。

洋服そのものだけではなく、作品が纏う背景のストーリーに思いを馳せる。

MIZENはそんな豊かな時間を感じられるものづくりを追求しています。

ファッションという
ルール

ファッションの中心は疑いなくヨーロッパにあるでしょう。
世界中で定期的に行われているファッションウィークも全て彼らに合わせて世界中が回る、
非常に完成度の高いシステムです。

そのルールは当然彼らが握っており、
ファッションで成功するためにはそれに則らなければなりません。
むしろ現状は、ほとんどの人はそのルールにすら気づくことなく
無意識の内に動いているという方が自然かもしれません。
そして多くのファッションブランドにとって、
この完成されたシステムのルールに従って活動することは極自然なことです。

ただし、”日本の伝統技術を輝かせたい”と考えた場合、
このファッションというデザイン優先の世界が
本当に最適な環境なのでしょうか。

短いサイクルで新しいデザインを次々と提案し、世界中からのオーダーに対応して量産をする。
手仕事に依存した技術ほどファッションとは縁が遠くなってしまい、
無理を強いなければ勝負する土俵にすら上がらせてもらえません。

ならば、自分たちでルールを作れば良い。
手仕事に合わせた、技術が一番輝くシステムを我々の手で作り上げよう。

MIZENはそう考え、全ての職人が共通した単一のルールに従うのではなく、
それぞれの作り手に合わせたサイクルを考え、手仕事が活かされるシステムを作ろうとしています。
MIZENのサイクルがファッションウィークと合致しないのは、
あくまでも技術を主役とした考えで活動しているからなのです。

余白を読む

日本にはなぜこれだけの手仕事が残っているのでしょう。

様々な要素が重なり合っての結果であることは疑いがありませんが、
着物はその理由の一つを語るのに適した存在だとMIZENは考えます。

現代では着物よりも洋服を着る人の方が圧倒的に多くなりましたが、
ファッションの楽しみの大きな要素は
様々な個性あるデザイナーたちによって創り出される豊富なデザイン(形)にあります。

世に存在するデザイン表現の数は無限大、
それがファッションが多くの人に常にワクワク感を与えてくれる理由にもなっているでしょう。

一方着物はデザイン(形)がほとんど変わらない世界。
呉服屋に行けば、そこに並べられているのは1反という同じ規格の反物のみ。

ではその同じ形の反物たちの何に対して人は値をつけ、評価をしているのでしょうか。

その答えは反物の背景にあるストーリーだと考えます。

どこの産地の、
どういった歴史的背景を持った技術で、
どの様な人生を送ってきた人が作っているのか。

着物の形が統一されているお陰で、
人は自然と眼に見える物体としての反物だけではなく、
眼に見えない作り手やその環境にまつわるストーリーに思いを馳せ、
作品の価値を自問するという独特の評価基準が存在するのです。

一昔前は誰もが着物を纏うということが当たり前だった時代、
自然と人々の感覚の中にも、
眼に見える部分の外の余白を読み楽しむという価値観が
普通にあったのではないでしょうか。
だからこそ、日本にはここまでの数多くの手仕事がいまだに存在しているのでしょう。

一方現代では人々は見かけで判断することにあまりにも慣れてしまい、
モノの背景まで考えなくても楽しめることが多くなってしまいました。
着物を始めとした日本の伝統技術・伝統工芸が衰退の一途を辿る原因は、
この価値観の大きな変化にこそあるのではないかとMIZENは考えています。

余白を読むためには、知識や経験が必要になり、
直感で楽しむよりも面倒な時間が増えるかもしれません。
ただ、楽しみ方が増えることはきっと我々の心の豊かさに繋がるはずです。

眼に見えない余白にも心を向けられる人がもっと多く増えたならば、
その時には今叫ばれているような伝統産業の課題の多くは解決され、
職人たちの輝く未来が在る。

我々MIZENはそう強く信じています。

生きるための知恵が
ラグジュアリーへ

現在ラグジュアリーと言われるもののほとんどは、
元々上流階級の人々だけが嗜むことができたモノやコトが時代とともに大衆化されたもの。
格差を前提とし、多くの人々が抱いている上への憧れや欲求に訴えかけます。

一方MIZENの作品の多くはその逆の流れを汲んでいます。

例えば「紬(つむぎ)」。
元来、不良品のために売買できないという理由から傍に避けられていたクズ繭を、
養蚕農家が「捨てるのはもったい無い、せめて自分たちの家族のために」と、
無理矢理糸を手で挽(ひ)いて織っていたもの。
生地の表面に現れている不均一な節は、元を辿ればB品扱いのキズだったのです。

それが時代とともに「風情がある」と価値観が変わり需要が増えたのですが、
不良繭は作ろうと思って作れるものではなく、
また糸自体も手で挽かなければならず逆に価値が上がり、
現代では高級品として扱われる様になりました。

この様に、元来は庶民の人々の生きるための知恵だったものが、
時代とともに高級品として扱われる様になったというストーリーが、
非常に日本的だと我々は感じています。

MIZENの扱う素材の中に紬が多いのは、紬との出会いが、”余白を読む”という日本の美しい価値観を教えてくれたから。

そしてこの余白は「人」が関わっている時、更なる豊かさが加わるのです。

MIZENが目指すのは、現在主流の物質的・経済的な豊かさとは真逆の、
「人」が介在することで我々にもたらしてくれる精神的なラグジュアリー。

日本はそれを追求できる要素を豊富に持つ、素晴らしい土地だということを
今一度考え直す時が来ているのだと伝えるための仲間を我々は集めているのです。

さあ、背景にある
ストーリーを選びましょう。

COLLECTION

有松鳴海絞 SUZUSAN

LOCATION

SHOP INFO

  • MIZEN store in HANEDA international airport
    東京国際空港(羽田空港)第3ターミナル 110番ゲート付近

    営業時間:7:00〜23:00


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  • 牛首紬×MIZEN白山店<加賀乃織座>
    〒920-2167 石川県白山市部入道町卜40番地

    営業日:月〜金 10:00~18:00 定休日:土日祝(不定休あり)
    電話番号: 076-273-5755
    お問合せ: oriza@ushikubi.co.jp

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