ディレクターからのメッセージ

世の中には、伝統技術を扱う企業が数多く存在します。
そして一般的には「伝統産業は変わらなければならない」
「現代のライフスタイルに合わせてアップデートすべきだ」と久しく語られてきました。

しかし、私たちがこれまでの活動を通して気づいたのは、
本当に変化が必要なのは伝統産業そのものではなく、
現代を生きる私たち一人ひとりの“認識”なのではないかということです。

いまは、あらゆる情報が瞬時に届き、スピードが何より重視される時代。
「3秒で理解できないものは存在しないのと同じ」
「3秒で目を引かなければ価値がない」
そんな無意識の価値観に、気づかぬまま多くの人が囚われています。

では、その基準からこぼれ落ちる“ゆっくりと生まれゆくもの”は、どうなるのでしょうか。
若い頃には理解できなかった美しさが、歳を重ねたある日ふと胸に染み込む──
そんな体験は、誰にでもあるはずです。
しかし今の社会では、こうした心の成熟のプロセスさえも見えづらくなっています。

かつて、いま「伝統工芸」と呼ばれるものが日常にあふれていた時代、
人々は「3秒で理解できないものは価値がない」などとは考えていませんでした。

むしろ背景を知り、時間とともに味わいが深まっていくその過程を、
自然な“日々の楽しみ”として受け取っていたのではないでしょうか。

日本に残る多くの手仕事の価値の本質は、目に映る美しさだけではなく、
心で視てはじめて感じられる豊かさにあるのだと我々は気づいたのです。

もちろん、現代のスピードが悪だと言いたいのではありません。
驚くほどに発達した文明は、私たちの生活を大きく変化させ続け、
それがもたらした豊かさも確かに存在しています。

けれど同時に──
ゆっくりとものを見つめる心の余裕
を持ち合わせなければ、目の前のものの本当の価値には出会えません。

日本の伝統に触れた時、それをどう捉えればいいのか戸惑う人も多いでしょう。
その時は、こう伝えたいのです。

「いまはわからなくていい。いつか理解できる日が来るかもしれないから」

時が経ち、その人の積み重ねた経験によってはじめて届く“美”は、
その人だけの、かけがえのない豊かさなのです。

ー日本の美意識ー
それはきっと、目に見えるものの奥にある“余白”を感じ取る感性。

そしてその感性こそ、スピード世界の真っ只中に生きる私たちが、
いま一度取り戻すべきものなのかもしれません。

MIZENは、この“3秒で処理される世界”と
“時間とともに理解を深める世界”を両立させる、
ファッションの新しいあり方を提案しています。

我々が“手仕事”に強く惹かれるのは、
そこに必ず“人”の存在が宿るからです。
そして、人は誰もが豊かな物語を抱えています。

その物語に、私たちは自分の経験や感性をそっと重ねてみる。
そうした瞬間、心の奥底でさまざまな感情が静かに立ち上がり、
目に映る価値を超えた心の“豊かさ”へと昇華していきます。

この行為こそが、まさに日本の美意識が大切にしてきた
“余白を読む”という感性であり、MIZENが最も伝えたい本質なのです。

だからこそ、私たちは”職人とその技術”を主役に据えているのです。

もし、新しいラグジュアリーがこれから生まれるとするならば、
それは物質的な豊かさではなく、こうした“精神的な豊かさ”なのではないでしょうか。

MIZENは、日本の伝統技術とともにその可能性を追求し、
この想いに共感してくださる方々とともに、伝統産業が再び輝く未来へ歩んでいきたいと考えています。